シリーズ 人と企業 松木安太郎氏来寺

去る5月12日、サッカー解説でおなじみの元読売ヴェルディ監督、松木安太郎氏が「国際グラフ」という雑誌の企画で、来寺され、対談致しました。
その記事を掲載致しましたのでご覧下さい。

心の時代だからこそお役に立ちたい
―誰もが通える開かれたお寺を目指します

対談 住職横湯誓之 インタビュアー[サッカー解説者]松木安太郎

松  木
本日は横超山安楽寺の住職であると同時に、2つの幼稚園を運営しておられる横湯氏にお話を聞いてまいります。まずは安楽寺さんの沿革からお願いします。
横  湯

当寺は親鸞聖人を宗祖と仰ぐ浄土真宗本願寺派の寺院です。
明治18年に横湯僧湖師が新潟県より北海道教区開教使として渡道し、ここ厚別に入植して念願の同朋と共に開教の鍬を入れたのが開基でして、お蔭様で平成17年には開教120年という記念の年を迎えさせて頂きました。
ちなみに私は4代目となります。
松  木
なるほど。住職はごく自然に仏の道に進まれたのでしょうか。
横  湯
はい。浄土真宗は世襲ということもあり、4歳の頃から法衣を着けさせてもらうなど有り難い環境で育ちました。法衣を身に纏うと父は幼い私を対等の僧侶として扱ってくれまして、正座で痛くなった足を崩そうとすれば「皆さんが見ている前ではきちんとしなさい」と厳しくたしなめられたものです。また、6歳になると近所の檀家さんをお参りする大役も与えてくれましたが、父は「皆さんは私が行くよりお前の方が喜んで下さる」と私を上手におだてて、意欲を高めてくれたりも(笑)。
松  木
厳格な中でも、伸び伸びと育ったのですね。その後はどのように。
横  湯
旭川にある宗門系の高校に進学し、京都の龍谷大学を卒業後はお寺の専門的な機関を2カ所修了させて頂きました。
そして24歳の時ほぼ10年ぶりに当寺へ戻って副住職を拝命した次第ですが、父はもともと糖尿病の持病があり、私が戻ったことで張り詰めていた気持ちが緩んだのでしょうか、体調が悪化し入退院を繰り返す日々を経て、平成13年に往生致しました。
若くして先代である父を失ったことは非常に残念でしたが、何かにつけて生みの苦しみを味わう経験がプラスになっていると受け止めております。
父は口で言うタイプではなく、叱る時は必ず「なぜ怒られたかを自分で考えなさい」と言われましたが、自分なりに原因を思い巡らせることで考える習慣が身に付き、成長させてもらったと今では有り難く思っております。亡くなった後も「父のあの時の言葉はこういうことだったのか」と得心する場面があり、上から押さえつけることがなかった父には心より感謝しております。
松  木
自分で物事を考え、判断する力が自然と養われたわけですね。
横  湯
法衣を脱げば普通の親子でサッカーや野球を一緒にしてくれましたが、入院することも多かったので「後を継げるようにしっかりしなくては」と早くから漠然とですが意識していたような気がします。
これは余談ですが、父が車椅子生活になったことで比較的早くお寺にエレベーターを設置することができました。ご高齢の檀家さんから「先代のお陰でエレベーターを利用でき、椅子に座ることができるようになって有り難い」とバリアフリーを喜ぶお言葉をよく頂戴します(笑)。

遊びの中から学ぶ大切さ

松  木
では、現在の安楽寺さんについて伺いたいのですが、格式とモダンさが融合した立派な本堂はまだ新しいのですね。
横  湯
私の第四世住職継職や開教120年・寺号公称110周年記念慶讃法要の記念事業として、平成15年に本堂増改築工事と内陣の修繕修復工事を行ないましたが、これらは全門信徒さんのご理解・ご協力があってこそ実現できたことで、皆様には深い感謝の念を抱いております。
松  木
地域に根付かれた歴史の証ですね。
横  湯
ちなみにこの厚別は20~30年前まで畑が広がっており、札幌市の副都心計画により一気に変貌したという経緯がございます。札幌市であるものの都心部から離れているため独自の文化が醸成され、土をいじられていた方が多いという地域性から純朴な人柄が特徴なのですよ。また、お寺は昔から地域のコミュニティセンター的な役割がございましたが、この地ではそうした雰囲気が今も残っているようです。
松  木
それはいいことですね。では、住職が日頃から心掛けていることとは。
横  湯
《若い人でも入りやすい身近なお寺に》ということは常に考えております。
松  木
特に若い世代にとってお寺は敷居が高く、葬儀か墓参りくらいしか足を運ばないという人が多いですよね。
横  湯
おっしゃる通りで、それだけに気軽に足を運んで頂ける存在を目指しております。当寺を広く知って頂きたいとの思いからホームページを立ち上げた他、行事報告が満載の『YASURAGI』という寺報を発行しました。
また、運営する厚別幼稚園・第2あつべつ幼稚園では仏教の教えを通して子供達に大切なことをお伝えしており、寺の行事などの際には子供達が本堂にお参りに来たり、私も毎月のお誕生会でお話をさせてもらっております。ちなみに第2あつべつ幼稚園は、線路を越えて厚別幼稚園に通わなければならない子供達を心配した檀家さんが土地を寄付して下さったのですよ。
松  木
お寺に足を踏み入れると大人でも背筋が伸びますので、子供さんも良い緊張感を定期的に体験するのはいいですね。心の荒廃が叫ばれる現代、自然に仏様に手を合わせられるのは素晴らしいことです。
横  湯
昨今では英語教育など付加価値のある幼稚園が増えておりますが、私どもは昔の寺子屋のように伝統的な教えや精神を大切にした指導を行なうことで、今の風潮に乱されない子供に育ってほしいと願っております。
例えば昔の子供達は外で色々な遊びをするのが普通でした。そして遊びの中でグループができ、ルールや秩序、思いやりの心などを自然に身に付けたように、今の子供達にも園庭で元気に伸び伸びと遊び、そして転んで膝をすりむいたりする中で痛みが分かって節度も養われてくると思います。心がすさむ世の中だからこそ、心を取り戻す時間にしてほしいですね。
松  木
こちらでは働くお母さんをお手伝いする「預かり保育」も好評だそうですね。働きたい、あるいは働かざるを得ないお母さんは増えていますが、子供を預ける時間の制約がネックという現実もあるかと。
横  湯
そうですね。働いておられたり、急用などで迎えに行けなくなった時にご利用頂いております。専属の先生が園外保育に連れて行ってくれるなど毎回楽しく過ごしており、他にもお菓子作りやゲーム大会、お楽しみ会など様々な催しがあって、毎回多くのお友達が楽しんでおりますよ。

松木氏と安楽寺を支えて下さっている皆さんと

気軽に足を運べる存在に

松  木
ところで、安楽寺さんでは様々な活動をなさっているそうですね。
横  湯
親鸞聖人のご命日には檀家の皆さんがたくさんお参りにこられます。
その月の当番が精進料理を作り、皆で食した後にお参りする「お講」という集いが100年以上続いております。
松  木
横の繋がりも強いのですね。
横  湯
はい。浄土真宗の北海道の交流以外に他宗派の連合会もあり仲良くさせて頂いておりますが、若いお寺さんは将来に危機感をお持ちの方が多いとあって、お酒を飲みながら議論を交わし、知恵を出し合っております。
それと趣味の部分ですが、高校時代ラグビーに熱中していた私は20歳を過ぎてから野球に目覚め、今では北海道のチームに所属し練習に励んでおります。宗門関係には高校野球の強豪校が多くOBも多数おられますが、京都で開催される宗門の全国大会に出場することが毎年の目標です。また、今年の7月に真駒内のセキスイハイムアイスアリーナで「全国寺族青年対抗フットサル大会」が開催される運びとなり、その準備にも関わらせて頂いております。
松  木
そちらも大いに頑張って下さい。それでは最後に将来の抱負をお願いします。
横  湯
「お寺は町の一風景」とおっしゃった方もいますが、単にあるだけではもったいないと思います。先程も申し上げたように、お参りも含めて気軽に足を運んで頂ける存在になりたい――これが目標ですね。
松  木
若い方にも敷居を低くとホームページを立ち上げられるなど地道な努力を重ねておられますが、手応えはいかがですか。
横  湯
ホームページには様々なお悩みを寄せて下さいます。何かしらお役に立てればと返信させて頂きますが、私の願いは心ある時代になってほしいということであり、それが私の向かうところでもあると確信しております。
仏教は葬儀や仏事関係だけと思われがちですが、前向きな人生の歩み、悔いのない人生をいかに送るかなどをきっちりお伝えすることも使命です。例えば人は生まれたら必ず死ぬという事実を受け入れた時、人生の歩みも違ってくると思いますが、これも父と早く別れたという縁から気付かせてもらったのだと思います。それだけに皆様の気付きのきっかけとなり、前向きな人生、悔いのない人生を歩んで頂ければ幸いです。そのためには分かりやすいアプローチも求められますね。
松  木
学校教育の限界が指摘されているように、学校以外で学んだり感じたりしなければいけないことがたくさんありますね。これからも地域の皆様が素晴らしい人生を過ごされることに寄与し続けて下さい。

PICKUP

純朴な厚別の人々に支えられ、開教124年を数える浄土真宗本願寺派横超山安楽寺。横湯誓之現住職は幼少期より仏の道を歩み、尊父の後を継承した以降も僧侶の役割をしっかり果たすと同時に、葬儀や墓参り以外でも気軽に足を運んでもらえる寺づくりに知恵を絞っている。また、2カ所の幼稚園を運営しており、のびのびと遊んで現代の風潮に乱されない健全な心を育むことに重きを置いている。「心ある時代」になることを切に願い、それに真摯に向き合うことに使命を感じる住職の更なる活躍に期待したい。

松木安太郎さんと幼稚園のお友達と一緒に(09.05.12)