教え tell me – vol.18 墓参


 気がつけば今年も半年が過ぎ、あっと言う間に夏を迎えることになりましたが皆さんいかがお過ごしでしょうか?ワールドカップサッカー、日本のベルギー戦を生放送で応援されていた皆さんは、一瞬でも良い夢を見れた代わりに寝不足になられた方も大勢おられるのではないでしょうか?(ちなみに私は生放送を最後まで見ていた口です。)
 さて、毎年この時期になると私の頭に浮かんでくるのはお墓参りのことです。今回は私がまだアメリカに開教使として奉職していた頃の話をご紹介します。赴任当初、米国人は墓参りをする習慣は特に無いと聞いていたので、墓参りに行かなくていいのかぁと勝手に思っていたら、上司の先生が「お墓参りに行く事?ありますよ!」と言われたのを聞き、なぜかと事情を尋ねると、戦争中、米国内に住んでいた日本人がアメリカ兵として最前線に送られた戦没者や、アメリカ人兵に連れてこられて米国内で亡くなった戦争花嫁のお墓に参るとのこと。どうぞ気軽に行ってください。と手書きの地図を渡され向かった初日の目的地が片道700キロと知った時には、これが米国か!と思ったほどでした。
 早朝コロラド州デンバーを出発し、ニューメキシコ州アルバカーキを目指し高速道路I-25を走り出す。信じられないほどの真っ直ぐな道のりを地平線に向かってただ延々と走っていると、信じられないほど眠くなってきます、すると自然とスピードもあがるもの…今度は信じたくないほどの赤と青のランプを点滅させた車が背後にビタッとついて路肩に車を寄せられ、信じられる範囲内の金額が書かれたチケットを時々プレゼントされた苦い思い出もあります。途中、点在する無縁墓地にお参りさせて頂く時に出会った方にお話を伺ったところ、やはり米国ではみんなが一斉に行う形でのお墓参りの習慣が無く、日本のように○○家の墓といった先祖代々の墓を守るといった考えもほとんどないそうです。基本的に個人単位で埋葬されるので祖父の墓と祖母の墓が全く別の場所だったりすることもあるそうです。その時その方に、あなたはご自身のお墓をどうされるおつもりですか?と尋ねたところ、「私は自分の墓は、すでに生前契約で購入済みで場所も押さえてありますよ」と言われ、さらに「日本のようなお墓参りの習慣は確かにありませんが、だからといってアメリカ人が薄情なわけでなく、亡くなった大切な人はいつも心にいるんです。」と熱弁されたのを聞き、私もMe too.と華麗に受け答えしたのが今では懐かしいおもいでです。
 キリスト教の文化では、亡くなられた方の魂は神のもとへおもむくとの考え方から、お墓へは葬儀の時にいく程度ですし、土地が広大なこともあり頻繁にはお墓参りはしません。ただ、亡くなった大切な方々が私にとって今どういう存在で有り続けるのか?といったことでいうと国境は無いのかもしれないと感じました。様式は違えど故人を思う気持ちは世界共通。どこの世界でもどんな宗派でも、先人に感謝の念を送り続けていると考えると、もしかしたら戸惑うことも少ないのかもしれません。 ただ、日々の暮らしの中で先立つ方をどういただいていくか?これから先を生きていく私たちひとりひとりが、たえず心がけていかねばならないことでしょう。

合 掌

この記事が掲載されている寺報やすらぎ