教え tell me – vol.29 初めてのメジャーリーグ観戦(北米開教区赴任時代)

安楽寺法務員 暉峻康徳

 2023年もまもなく終わりを迎えますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。今年は、侍ジャパンのWBC優勝(3大会ぶり3度目)やオリックスバファローズのリーグ3連覇、阪神タイガースの日本シリーズ優勝(38年ぶり2度目の日本一)、と野球に関して記憶に残る年になったのではないでしょうか?さて、その野球熱の冷めない今、大谷翔平選手や山本由伸選手がどこの球団に所属するか?ということに世間の注目が集まっています。今までメジャーリーグで活躍した日本人選手(野茂選手やイチロー選手)の歴史を考えると当然のことと言えるかもしれません。
 思えば私が初めてメジャーの試合を生で見たのは、北米のデンバー仏教会に赴任していた時でした。当初お寺のすぐそばにクアーズ・フィールドと呼ばれる球場があることや、デンバーにコロラド・ロッキーズという球団があることも全く知らなかった私は、ロッキーズを応援する一員として恥をかくといけないと思い、試合開始1時間以上前に近所のバー、グリズリー(灰色クマの看板)で情報収集をすることにしました。
 当時、日本人が珍しかったらしく、店に入るとすぐに色々な人から声をかけられたので、すぐそこの寺で働いている僧侶だと伝えると毎週木曜がハッピーアワーでお得だとか、観戦チケットを安く手に入れる方法や、レストランで常連のみが注文する裏メニュー料理、野茂選手のノーヒットノーランがいかに偉大であるかなど、親切に話しかけてくれたことを思い出します。その中で観戦チケットを安く購入した話を今回はご紹介したいと思います。
 教えてくれたエディの話では、まず試合開始時刻より15分~20分遅れて球場に向かう。すると入口付近で余ったチケットを売りたくて仕方ない人たちが何人かいるのだが…誰それかまわず声をかけるのではなくサングラスをしたスキンヘッドの背の高い黒人にチケットが欲しいむねを伝える。何か言われたらエディの紹介ですよ?と言えば問題無いよ。とサムズアップで送り出された私は、その言葉を信じそのまま行動をおこしました。すると確かにその容姿(普段なら絶対に自分から声をかけることのない怖そうな人)の人がおり、チケットが欲しいむねを伝えると・・・案の定「なぜ俺がお前にチケットを売らないといけない?その情報を誰に聞いた?」と言われたので、エディの紹介だと伝えると「なに?お前はエディの友達なのか?」と言われ、そうだよと言うと「俺はあいつに大金を貸したまま逃げられて困ってんだ!友達なら代わりに払えよ!」とすごんできたのです!
 ビビった私が涙目のアワアワ状態で後ろを振り返ると柱の陰からエディがひょっこり登場、正面を振り返るとその黒人がサングラスを外し白い歯をニカッとさせて・・・「冗談に決まってるだろう(笑)」と言ったとたんエディと共に先ほど酒場にいた面々が後ろから現れ、サプライズ! 冗談でなかったら自分はどうなったんだろうと今だからこそ思えることです。ちなみにその黒人の人はエディの親友でチケットを格安で譲ってくれました。なんであんなサプライズをしたのか? と後日エディに尋ねると、エディいわく、人と仲良くなるためにはやわらかくなったほうが早く仲良くなれるんだよ? 坊さん、あんた表情が硬かったし礼儀正しすぎるところがあったから、ちょっとほぐしてやっただけさ、と異国の地で天涯孤独だと思っていた自分に優しい心を分けてもらったことを昨日のことのように思い出します。 合掌              

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