ある人がお墓を建てたところ、軸石にちょっとしたヒビのような筋が入っているのに気づき、新しい石に取り替えました。しかし、一年もたたないうちにまた筋が入ったので、「きっとこれは故人がこの場所を嫌っているのだ」と思って、高価な代金を再び払い、別の墓地に移したのです。
この人は墓相を気にし「墓石にヒビが入ると家族が大ケガをしたり、家庭不和になる」と思い込んでいるようです。
だいたい、自分の家の壁に少しぐらいのヒビが入ったからといって、家を建て替える方(かた)はいないでしょうに、こと墓石になると、よく見ないとわからないほどのヒビでも目くじらを立てて見つけ出し、取り替えるのですから、墓相を気にする人は相当のこだわりようです。
ヒビのほかにも、墓石の一部が欠けたり、傾いたりすると「家運が傾き、不運を招く」などといいます。
どれもこれも、自分や家族に災いが起こるのを恐れて神経質になるのでしょうが、墓石の状態と家人の災いの間には何らの因果関係もありません。むしろ災いが起こった時に、その原因を墓石に押しつけ、先祖のせいにして事実を正しく見ようとしない心のありようが問題でしょう。
墓相にこだわるということは、根も葉もない迷信にふりまわされることであり、かえって不安や恐れが増して、少しも心からの安らぎを得られない結果となります。
もっとも、ヒビ割れが実際に目立ってきたり、墓石が傾いて倒れそうになれば、修理や取り替えを行わなけれなならないことはいうまでもありません。しかし、それは”不幸を招く”からではなく、ご先祖の遺徳を偲び、如来さまのお慈悲を味わう場として、すっきりと気持ちよく手を合わせるためです。
なお、お墓を移転(改葬)することについても「移すと悪いことが起こる」と気になる人がいますが、そういうことも一切ありません。
(本願寺出版社 仏事のイロハより抜粋)